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企業用ストレージの顧客は、なぜ最適でないベンダー関係にとどまるのか

ゲストブロガー:エリック・バーゲナー(IDC、インフラストラクチャ・システム/プラットフォーム/テクノロジ部門、リサーチ・バイスプレジデント

多くの企業には、長期的に取引するうえで「好ましい」ベンダーを一覧にした「承認ベンダー」リストがあります。しかし2019年にIDCが行った一次調査によると、承認ベンダーリストがある企業の61.2%は、こうしたリストが最適なソリューションの選択を制約しているとし、また50.6%は、過去に承認ベンダーリストにないベンダーを選択したことがあるとしていました。この事実からは興味深い問題が見えてきます。なぜ企業用ストレージの顧客は、自社のニーズを満たしそうもないベンダーとの関係を続けるのでしょうか。

企業がストレージベンダーとの関係を構築しようとするの、長期的な関係が時には副次的なメリットをもたらすからです。システム管理者は、あるベンダーのシステムについてトレーニングを受ければ、その後続の機能やリリースを習得する方が、まったく別のベンダーに乗り換えるよりも容易です。また、スキル不足によって新たな設備に関するトレーニングに必要な時間を制約されることも、ストレージシステムの変更に関わるもう1つの検討材料になります。購入という行為を通じて、そのベンダーとどう協力するかが次第にわかってきます。そして現場技術者、テクニカルサポート、営業担当者の間に、顧客のビジネス目標達成を促進する関係が構築されます。こうした顧客関係がお互いに恩恵をもたらすものであれば、そのベンダーにとどまるのは理にかなっています。

それでも興味深いことに、企業の55.6%が、主に次のいずれかの理由により、承認ベンダーリストからサプライヤーを除外したと述べていました。

  • データインテグリティの喪失、長期間のサービス停止、未解決のサポート問題のような「許容不可能な失敗」があった。
  • 長期間にわたって質の低い顧客サポートが続いていた。
  • 既存の関係をいいことに、顧客が収益上重要と見なすものを提供しなかった。

​  Why Enterprise Storage Customers Stay in Suboptimal Vendor Relationships

満足している企業と、リストからベンダーを積極的に除外する企業の間には、部分的にしか満足していなくても、何らかの理由でそのベンダーにとどまり続けている企業があります。その主な理由は、乗り換えにリスクを感じていることです。満足していなくても、乗り換えに期待できるメリットが、乗り換えのリスクやコストを上回らないと思われる以上、可もなく不可もないソリューションにとどまっている方が楽なのです。

乗り換えのリスクを低減する方法はいくつかありますが、企業に検討を促すには、もっと大きな、より優先される懸案事項がなければなりません。乗り換えを検討する主な理由として挙げられるのは、テクニカルサポートに対する不満の増大、購入価格の安さだけでなく総保有コスト(TCO)に基づく確固たる経済的メリット、新たなワークロードやオペレーションの大幅な改善を可能にする、現行ベンダーから入手できないテクノロジなどです。

ストレージ・ソリューションやテクニカルサポートへの不満を突き詰めると、しばしばパフォーマンスや可用性のSLA不履行にたどり着きます。それは、テクノロジと顧客の評価の両面でそれらの要件を満たすことが実証されているシステムへ顧客が移行する格好の理由になります。システム・アーキテクチャ、メタデータの取り扱い、ストレージメディア、データ配置アルゴリズム、サービス品質制御は、いずれもパフォーマンスに大きく影響します。システム・アーキテクチャ、ホストマルチパス/RAID/スナップショットなどの機能、各種の複製トポロジ(例:Active/Activeクラスタ)、ハードウェアの冗長性、現場で交換可能なホットプラグ対応のコンポーネント、そしてストレージ・オペレーティング・システム設計や無停止オペレーション/マイグレーション/アップグレードのような設計方針は、いずれも高可用性の維持の一端を担います。ベンダーの実装は非常に多岐にわたるため、システム間に、一貫したパフォーマンスの大規模な実現と高可用性要件への適合というどちらの能力においても大きな差を生みかねません。ソリッドステート・メディア、ソフトウェアデファインド設計、人工知能、機械学習、バイトレベルの詳細なロッキングのような新たなテクノロジの活用は、旧式のストレージにはない導入・運用のリスクを低減する方法を提供するため、現行システムの置き換えがいっそう魅力的に思えてきます。ベンダーが積極的に自社のシステムにパフォーマンスや可用性の保証を付け、有意義なメリットを盛り込んでいることは、そのベンダーがこれらの要件を満たす自信があるという1つの目安になります。

TCOについては、評価するのにさらに手間がかかるでしょう。当初の購入価格とは別に、企業は管理者にとっての使いやすさ(さらに関連する新たなトレーニングコスト)、オペレータの生産性、導入される新たなパラダイム(コンテナ、自動オペレーション、クラウドなど)への統合の可否、継続的な保守費用、データ移行設備、新たなストレージの全般的効率性を考慮しなければなりません。効率的な設計は、パフォーマンス密度を大いに高めるため、はるかに小型で消費電力や設置スペースの小さいシステムで、企業のワークロードを処理することができます。

ストレージに関する検討事項には、経済性の改善につながる唯一にして最大のチャンスがひそんでいます。2つ~3つ、場合によっては4つのシステムを置き換えて、マルチペタバイト級のキャパシティでパフォーマンスを大規模に実現するよう特別に設計された1つのシステムへ移行できれば、コスト削減効果は何倍にもなります。管理が一元化されることで、システム管理の生産性が大いに高まります。パフォーマンスとキャパシティ有効活用の両面で、規模の経済性がさらに効率化され、保守契約の件数が削減され、ベンダーとのやりとりを省くことが(さらにはベンダーを間引くことも)可能になります。ただし、ここで重要なのは、新たなシステムが、求められる広範な一連のSLAをコスト効果的に履行するため、パフォーマンスと可用性を大規模に実現できる必要があることです。高密度なストレージ集約に対応し、かつ前述のリスクを低減する特性も備えたストレージシステムをベンダーが提供できるということは、ベンダーを乗り換える極めて訴求力のある理由になるでしょう。

アバウト Eric Burgener

IDCの企業インフラストラクチャ・プラクティス部門リサーチ・バイスプレジデント。主な担当はストレージシステム、ソフトウェア/ソリューション、四半期追跡、エンドユーザー調査、アドバイザリサービス/コンサルティング・プログラムです。企業用ストレージで培った経験を生かして、特にフラッシュ最適化アレイ、発展中の永続性メモリ技術、ソフトウェアデファインド・ストレージに重点的に取り組んでいます。IDCのITバイヤー調査プログラムに活発に参加し、インフラストラクチャやデータ管理をテーマとするブログを、年間を通じて発信しています。